JCDデザイン賞2003審査員選評
大賞受賞作品
[コウチ・マーケット]
/長尾亜子+大成優子
- そのままにしていられない気持ち
選評
JCDデザイン賞の今年の特別審査員は糸井重里さん、空間デザインとかにはシロートである。しかし「クリエイティブであること」は糸井さんのテリトリーだから、商いの空間をクリエイティブの視点でどう観察するのかはおおいに興味があった。
糸井さんのいうクリエイティブは、デザイン業界で流通する視覚世界よりももう少し手前と奥に広がっている。「いままでにない何か」だとか、「発想しつづけること」だとか、「そのままにしていられない気持ち」だとか、そんな意味でのクリエイティブが求められていると。そして生産の側、送り手の側だけではなく、消費の側、受け手の側をクリエイティブの視点でとらえなおさなければならないともいう。
今年のJCDデザイン大賞「コウチ・マーケット」は、そんなことの見事な実践である。築地市場移転を背景とした場外市場の再生のための「少しの調和と少しの対立」の計画には、過剰なデザインが見当たらないかわりに築地場外市場への「発想」があり、消費側をフワリとラップングし受け止める場がある。そして全部じゃなくて少しの計画であることが、かえって築地場外市場への「そのままにしていられない気持ち」をつくりだす。ミニマルのような力技ではない「少し」であること。この作品(この言い方もに合わない)、力作ならぬ力作である。
JCDデザイン賞2003審査委員長 飯島直樹
年鑑日本の空間デザイン2004 / 六耀社