JCDデザイン賞2004審査経過
今年は公開審査会場を東京デザインセンターに移し、6月15日に審査が行われた。 審査員は6名。ここ数年同じメンバーの青木淳、飯島直樹、近藤康夫、杉本貴志、橋本紳也に加えて、特別審査員にグラフィックデザイナーの原研哉が参加した。
審査員が複数であるということは、実は半ば意図している。複数であることが、審査を多数をよしとする選別に終わらせることなく、選ぶことの理由をめぐって議論を呼び起こすことになるからだ。事実デザインについて、しかも数多くの他人の作品について、短時間にこれだけコトバを投じ合うこともめずらしいのではないか。審査会場は後半になると緊迫した空気に包まれる。そして選考対象となる作品をひとつの評価で判定することが困難になってくる。選別は必ずしも多数をよしとすることにならない。しかしそれは、前述したように、私たち主催者の目論んでいることでもあった。 私たちは、その困難さを一種の批評の表出として考えている。
商環境デザインは今活況にある。そして大変面白い。しかしその面白さは放置されている。JCDデザイン賞はその面白さの理由を探し、デザインの大きな領野にさしもどす役割を担っているのではないだろうか。
さて今年の審査経過について。去年に続き今年も海外に応募を呼び掛けた。批評の場を日本に限定せず、開かれた場とすべきだからである。 応募総数は364点で、内28点が海外からの応募であった。(台湾22、韓国5、イタリア1)。大規模な商環境から小さな店舗、さらには音や光をテーマにした仕事まで多種多様。6部門ごとに入選、奨励賞、優秀賞と、順次選考される。奨励賞までは多数票が異論なく繰り上がるのだが、優秀用を選考する段階になると、同数票の数点からさらに選別することになる。審査員のそれぞれの選出理由が、ひとつの作品をめぐってぶつかり合う。 中には、多数票を得ながら異論が提起され、優秀賞から除外される作品すらでてくる。優れていることのもう少し先の深度や独自性が、審査員によって前もって共有されているわけでもないのに徐々に選出されるのである。こうして最終選考に残ったのが以下4点である。
「ビーンズダイニング"ソヤ"」ー数年後に消滅することを前提にした、だんだんなくなる期間限定ダイニングバー
「コインランドリー」ーありふれた街中の、ほんの少しのデザインのコインランドリー
「LANVIN BOUTIQUE GINZA」ー穴だらけの鉄で包まれるブランドショップ
「Natural Laundry Boutique」ー台湾のモダンリノベーション店舗
大賞選出のために、あらためて票を投じる。「コインランドリー」と「LANVIN BOUTIQUE GINZA」がいったんは卓上に残り、大賞に値するかが議論されたが、拮抗する。その間、特別審査員の原研哉が、リ・デザインという視点から「コインランドリー」を強く押し、だけれども大賞ではないとの見解で原研哉賞となる。再度投票。「ビーンズダイニング"ソヤ"」と「LANVIN BOUTIQUE GINZA」が票を二分し、またも拮抗。しかし群を抜く大賞としての強さの欠落が指摘されて、結果、今年は大賞該当作なしとなった。と同時にこの2作品について、その拮抗を積極的に捉え準大賞とした。
今年のJCDデザイン賞で特筆すべきことは、海外の応募作品のレベルの高さである。 それはデザインの水準というよりも、デザインへの立ち向かい方、意志の強さにおいて感じられた。
[JCDデザイン審査委員長、賞委員長 飯島直樹]
年鑑日本の空間デザイン2005 / 六耀社