KU/KAN賞2008 選評
第2回KU/KAN賞
[空間構造を解き明かし可視化するデザイン] 廣村正彰
2008年のKU-KAN賞は廣村正彰である。この年鑑の掲載に当たり、廣村デザインの背景を探ろうと文化人類学者の竹村真一と対談をしてもらった。 どんな話になるのかという興味もあって、私はその対談に同席した。その対談が「スローなデザインはコンテクストを誘う」である。廣村デザインの、とりわけ空間との応答、流入、浸透を試みるサインデザインの魅力を、この対談は繊細に、しかも力強く抽出している。私は二人の話を聞きながら、このKU/KAN賞というアワード推進に際し、私たちが議論したことの芯のようなものが検証されているような気持ちになった。(中略)
デザインという事態は、今、ある種、渋滞しているといっていいのかもしれない。解釈も、創造も、手法も、多種に及んで方向を競う。結果、奇妙な渋滞が感じられる。そんな中でKU/KAN賞の選出は今年度も難航した。安易な渋滞の解消は論外である。19点の候補が挙げられ、大きな都市空間の開発、長年にわたる商環境のプロデュース、美しい茶室、持続的なデザイン貢献、中には映画までもが論じられた。論議は、いわば、それらの候補作の推薦理由にどう肉付けし、デザインのリアリティを探るかであった。数度にわたる選考経過の後、廣村正彰の「空間構造を解き明かし可視化するデザイン」の業績をKU/KAN賞2008に選出した。
廣村正彰のデザインの仕事は、きらびやかなものではない。サインデザインという限定された部位への働きかけによって、空間の骨格と生成を呼び起こす。建築家の山本理顕とのコラボレーションがサインデザインとの新しい出会いだったという。中学校校舎の建築空間に穴(ドット)をモチーフにしたサインデザインを組み込んだ仕事だ。サインデザインという部分が建築全体のアクチュアリティを生み出す動的なデザインがここから始まった。饒舌な意匠はなく、あらわされているものはインフォメーションの機能である。そっけないといってもいい。しかし、それらが場に即し、サインとしての絶妙な必然を見いだすと、隠れた空間の次元を生み出す。空間を物理から解放し、インフォルムの場をつくるのだ。このように、サイン、あるいはグラフィックデザインという仕事を通じて、空間に豊かなコンテクストをいざなうデザインには、デザインの渋滞を抜け出す希望がある。それは、KU/KAN賞を始めようとしたときに議論した芯のようなものとも重なるように思われた。KU/KAN賞とする理由である。
空間デザイン機構 飯島直樹
年鑑日本の空間デザイン2009 / 六耀社