JCDデザインアワード2010審査評
溶鉱炉を前にしたときの熱い「たぎり」感とか、収拾のつかないカオスといった感覚の欠落。これが最近のJCDデザインアワードの印象である。 冷えきった経済情勢の影響もあるが、どうやらそれだけではない。作法としてのデザインの投じ方がクールなのである。それは、最近の入賞作の過半数を占める、建築出身者の仕事の質と重なる現象だ。表層や物性をたくみに利用しながら、寄り掛からず、引いた視線で空間を解析する。装飾を手なずけはしても、見放すようなデザインが多いのだ。
今回、大賞候補として最後まで残ったKEIKO+MANABU設計の『SOQS』(文字どおりソックスを売る店)は、そのように見える。 彼らがJCDデザインアワードの大賞を競ったのは2度目だが、一昨年の『BLESS』(ファッションショップ)も、手法の違いはあるが、そのように見える。継続するモチーフがそこにはあり、それは時代の申し子のようにも思えた。私は今回の『SOQS』を、空間デザインの「ゼロ年代現象」として評定しておくべきではないかと思い、大賞に推薦した(7人の審査員中、私だけであったが。)
商環境を相手にするデザインは、常に時代と並走している。「ゼロ年代」という時代の感覚は他の応募作品にも散見できる。KEIKO+MANABUのデザインは、その優れた達成であろう。まかりまちがっても「たぎり」感とかカオスの感覚はなく、彼らのデザインはゲーム的な象徴操作と奇妙なハイパーリアルの演出を施す。平然としてアイロニカルなひねりを投じる。取り扱い品目は徹底して表層。しかし手法は構造的。 それが80年代のポストモダンの記憶を孫悟空のように突き破って露呈する。そのしたたかぶりを大賞として記録しておきたかった。
飯島直樹
JCD理事長
年鑑日本の空間デザイン2011 / 六耀社