JCDデザインアワード2011審査員選評
大賞受賞作品
[レッドライト・ヨコハマ]
/吉村靖孝建築設計事務所
「親不孝通り」という名の不良のたまり場のように、横浜には危険な町名のエリアが多々ある。例えば、「黄金町」もそうだ。名前からして相当に危ないが、そこにあった元風俗店を改修し、ギャラリー+ショップとして再生したのが、「レッドライト・ヨコハマ」である。いわゆるコンパクトショップだが、さすがに12㎡の空間はいかにも小さい。しかし、410点の応募作の中からこの極小空間が大賞に選出された。
受賞者の吉村靖孝は、この数年来、意欲的なデザインを呈示し続けている建築家である。プロジェクトに潜む課題に対し、理性と感性がダイナミックに統合する解答を投じる、そういう仕事で注目された。「レッドライト・ヨコハマ」はそれらに比べて小さく立地条件も劣悪だが、その分、そうしたデザインの解答は圧縮され、強い表現を生み出している。何せ黄金町(有名な風俗街)であり、横浜なのである。 この作品は、この町に潜むタランティーノ映画のようなアバン・ポップ(アバンギャルド+ポップ)な感覚を巧みに誘発する。 青い部屋と白い部屋の二分がこのデザインのすべてである。青の部屋は「ブルーライト・ヨコハマ」、つまり「いしだあゆみ」の歌のメタファーであり、そこから白い部屋に移動すると、知覚の補色残像効果によって白い部屋が赤く感知される、つまり「レッドライト・ヨコハマ」となる仕掛けだ。 そうした知覚現象のイリュージョンと赤塚不二夫の漫画に出てくる警官の涙目のような唐突な仕切り枠によって、劣悪な極小空間の理不尽さをふてぶてしく解き放つ。アッケラカンとしたアバン・ポップ。 デザインの、極小だけれども溌剌とした力技である。
JCD理事長 飯島直樹
年鑑日本の空間デザイン2012 / 六耀社