JCDデザインアワード2012審査評
JCDデザインアワードは海外にも公募している。今年は中国からの、過激な造形のデザインが大挙して押し寄せてきた。一目でわかるそれらチャイナデザインとわがジャパンデザインの応募案、とりわけ大賞となった「まちの保育園」との離隔感が何よりも興味深い。デザイン、中でも商環境デザインは社会そのものといってよい。中国のデザインは中国の、ジャパンのデザインは避けようもなく日本の社会構造を映し出すのである。 たとえば中国人デザイナーの映画館施設「Wuhan Pixel Box Cinema」は、日本の1980年代インテリアデザインを思わせる過剰さであり、彼の国の今の気持ちが濃厚なもの。このストレートさを、世界の同時性として受け止めたいと、私は審査員賞に選んだ。 一方「まちの保育園」(宇賀亮介)は、過剰な生産と消費を終えた島国の静けさと、しかしながらそこに業を発生させようとする新たな意思の発現であった。街につながろうとする原っぱのような建築の涼しさは、やはり中国にはないもので、高橋慎之、堤庸策による福井郵便局のリノベーション「colissimo」に連なるものだ。今年の応募は、小説でいえば、荒々しい中上健次=中国と、ホンワカした村上春樹=ジャパンを同時に眺めている気分だった。
大賞を最後まで競ったのは藤井信介の鎌倉の肉屋「萩原精肉店」だった。保育園とは対比的に精密なディテール、綿密さが特徴である。 しかしこれも現下の日本のデザイン、肉の販売の重要なVMDに「肉屋のおじさん」を掲げ、ヒトの相互のコミュニティが主題となっている。 この賞に応募するデザイイナー像は、時代と社会との間にあって変化する。私は2005年以降の「感覚構造主義のようなデザイン」を『ゼロ年代11人のデザイン作法』(六耀社)という本に編集したことがある。最近の応募動向でいえば、大きな組織設計会社(タカラスペースデザイン、竹中工務店、コクヨ、乃村工藝社)から意欲的な若い世代が台頭していることはやはり新傾向として記憶したいと思った。
JCD理事長
JCDデザインアワード審査委員長
飯島直樹
年鑑日本の空間デザイン2013 / 六耀社