JCDデザインアワード2012選評
大賞受賞作品
[まちの保育園]
/宇賀亮介建築設計事務所
縁側に腰掛けてボーっと小さな庭を見る、スイカを食べながら。このようなときには、縁側のある家は造作は大事じゃなくて、身体の呼応=行き来する空間のようなものが優先される。子供が遊ぶ(何もない)原っぱと同じだ。デザインとか設計には不向きな状況設定である。ところが最近はそういう状況設定が数多く出現しているのだ。今年の大賞となった「まちの保育園」もその一つと言えるだろう。 社会における急激で大きな変化が背景にあるようだ。
「第四の消費」(三浦展)といわれれる変化がさまざまな状況を吸引しているようなのだ。今までの社会が見過ごしていた地域や場面で新たなモノやコトが生まれている。その多くは、モノよりも行き来する空間やヒトが主軸だ。設計をするヒトも全体の進行の中でシェアされ、コミューンのような動き方をする。1970年代に出没したヒッピーコミューンと違って、当節は現実の社会コミュニティに根を張り、「第四の消費」を喚起するマーチャンダイジングにもしたたかに手を差し伸べる。
公開審査では提示されたパネルの情報のみが手掛かりだ。原っぱがあり周囲に開放される風情。内外が行き来する建物。そこには保育の空間だけではなく、パン屋もカフェもある。しかも夜は、子供を迎えに来たお父さんが酒も飲める。分節(古い建築用語だ)とは無縁。ユルーイ空間、つながりの空間を「縁側のようにいいな」と感じた。 しかし贈賞後、いろいろと調べて背景がわかった。この保育園=小竹向原のコミューンは、「第四の消費」に向き合う創造的な企業の周到なステラテジーであった。数年前に秋駐車場の2階を商環境事業化してJCDアワード銀賞を受賞した新世代の、その時代と並走する「まちの保育園」なのである。
JCD理事長 飯島直樹
年鑑日本の空間デザイン2013 / 六耀社