JCDデザインアワード2013審査評
日本のショッピングビルは今、実は困っている。モノを買う=ショッピングの社会背景は流通革命を謳歌した20世紀末の後、激変してしまった。その後のIT革命、金融革命、グローバリゼーションに翻弄される中で、ショッピングの場も変化しようとしているのだが、郊外化という社会の変化や都心の消費構造のネジレに即答出来ずに困っているのだ。 このJCDデザインアワードは、商環境領域の視野を押し広げて、デザインだけでなくその時々の社会背景も鑑定してきた。しかしDCブランドブームの頃の先鋭的ファッションショップや、アトモスフィアが濃厚なレストランスタイルの隆盛時に比べ、ショッピングビル(SC,モール、百貨店、専門大店)が賞に露呈することはほとんど無かった。ショッピングビルの形式がステレオタイプ化し、デザイン面での注目に欠けたのである。 ゼロ年代以降こうした停滞感の隙間で、実は社会の変化に敏感な反応があらわれた。たとえばAMO=レム・コールハースが先導するハーバード大学の研究グループは、世界のショッピングの場面をリアルに抽出した(The Harvard Design School Guide to Shopping/2002)。批評家東浩紀が編集する雑誌「思想地図β」の創刊号(2011)の特集は「ショッピング/パターン」であった。ショッピングが都市研究や批評の対象となったのだった。実際のショッピングの現場でも実験的な試みが散見されるようになる(鹿児島の百貨店マルヤガーデンズなど)。時代の趨勢あるいは社会の要請が、ショッピングという商環境のベタな現場に押し寄せているのかもしれない。
2013年のJCDデザインアワードはそんな感想が具現化したかのようだった。
例えば金賞の「NEWLAND」。郊外を席巻するショッピングモールと一線を画し、土地に根ざした風景(工場のような重機置き場)にショッピングを放り込み、地域そのものをリノベーションする。郊外の郊外による郊外のための空間=もう一つのショッピング空間の試みだ。
同じく金賞となった「インターメディアテク」はショッピングビルの中の「学術文化総合ミュージアム」である。かつて美術館を付帯させる百貨店があったが、これは常設の博物館でしかも無料。ショッピングビルの中枢階を占有する。この利潤を生まない博物誌的な空白空間の出現は、金融革命以降の疲弊の現今にあって、極めて興味深いショッピングビルタイプを生成した。
そして大賞の「東急プラザ」。一般的なショッピングのビルディングタイプを支配するのは最大容積の獲得とフロア毎に序列化される賃料の構造である。デザインはその構造を満足しなければならない。ましてや表参道の超一等地である。「東急プラザ」はそうした商業の資本主義的構造を全身で引き受けつつ、ヒトの身体に根ざしたアフォーダンスの着想によって軽やかに反転させた快作である。可能態としてのショッピングを示した鮮やかな大賞作として、記憶されるべきデザインである。
一般社団法人日本商環境デザイン協会理事長 飯島直樹
年鑑日本の空間デザイン2014 / 六耀社