JJCDデザインアワード2016審査員選評
金賞受賞作品
[Aesop札幌ステラプレイス店]
/ケース・リアル 二俣公一
Aesopは、1987年にオーストラリア・メルボルンで生まれたスキンケアブランドである。世界中で直営店を展開するが、独特の琥珀色のパッケージを包み込む内装はどれ一つとして同じものがない。それなのに世界の何処の店舗でも、共通するAesopのフィロソフィーが漂う。 そのフィロソフィーとは、マーケティングコンセプトといった業界用語の彼岸にある。その店の周りの土地や歴史、街や道の気配のようなものに 入り込み、そこにAesopを寄り添わせる。出店に際し、ブランドありきの主体に重きを置くのではなく、そこにある何げない客体との関係づけに注力する。
日本で最初の出店、Aesopのクリエイティブマネージャーのそんな脱力のブランディングに応えたのが青山店だった。デザインを担当した長坂常は中野区の廃屋の板材=時間が染み付いた客体にAesopを投じた。続く2店舗目は、銀座裏通りで47年間愛された「ミラノシューズ」の跡地出店だった。永年「ミラノシューズ」のファサードで使われていたレンガ=街の気配に注力し、その店舗はレンガの物質感に満ちたデザインだった。こうした元々そこにある気配との共存、街や道の物語への参入、素材へのこだわりは、その後のAesopのショップデザインに継続される。今の日本のショップデザインのあり方として特筆される事例だろう。
2016年のJCDデザインアワード金賞となった「イソップ 札幌ステラプレイス店」は、単年度の優れたデザインであることに加え、Aesopのこのようなショップデザインの特異な取り組みの一つとして評価すべきだと思う。その土地や歴史からインスピレーションを得てデザインを担ったケース・リアルの二俣公一は、札幌市内で採掘される「札幌軟石」を選んだ。荒い石肌、荒研ぎで磨かれた柔らかな石の気配、ぬらりと半光沢に仕上げられた金属、それらがAesopの琥珀色のパッケージと呼応する。石と金属に組み込まれる絶妙な曲面ともあいまって、この店には、物質の精緻が生み出す静かな官能が感じられる。細部に宿るだろう神をそれとなく呼び込もうとする「職人技」として評価したい。
飯島直樹
年鑑日本の空間デザイン2017 / 六耀社