- システム
空間デザインにおけるシステムの概念は、一般的に便利な有用性として理解される。
システムを導入することで、機能が可変的になり、互換的になる。
システムキッチンやシステム家具などはインテリアデザインのシステム導入の代表的な例であり、さまざまなシステムの工夫がなされている。しかしシステムの概念は、デザインの積極的な方法としてとらえると、このような利便性だけではなく、空間デザインの可能性をおし拡げる要素をもっている。
ここにとりあげたいくつかのインテリアデザインは、そのいずれもが、システムとして空間を見立てることによって、空間デザインに独自の視点を獲得している。
普通デザインがめざすものは、美しい形や優れた機能である。
それらはデザインした結果として見ることができる。ところが実際の空間の現実は、実はそうした見えるものだけで感知されているのではない。見えるモノの間にある空気や音など、全体の仕組みとして感知しているはずである。見えているものはその一部なのだ。
だから形をデザインすることだけが、デザインなのではない。見えなくてもデザインすべきことはあるのだ、というわけである。これらのインテリアデザインは、多分そんなことに近いことを試みている。もちろん、最終的には見える形に収斂させているのだが、そこに至るまでの見えない「構造」のようなものに向き合っている点で共通している。システムを用いることで、機能の合理性は手中にできる。しかしそれ以上にこれらのデザインが求めようとしたのは、システムを介入させながら、空間の仕組み、構造を発見しようとすることなのである。そして、その結果、表現の仕方は異なっているにせよ、「ひとつの全体」を実現しようとした点で似通っている。つまり、ここに見られるシステムは、利便性に貢献する一方で、空間の仕組みの構造を発見し、ひとつの全体を生成するために作動しているのである。
『ESPRIT香港』はおそらく、最初から「ひとつの全体」を手中にしようとした。メッシュでおおいつくす単一の様相がまずありきなのである。そこに、巧みに店に必要な機能があてがわれる。形は背後におしやられ、仕組みの構造だけが、ムキだしとなる。概念-アイデアだけが残存する、そんなデザインだ。
「フジエテキスタイルショールーム」は、展示すべきカラフルな布をシステマティックに処理する。上下する布のシステムによって、場の生成が目論まれている。「動くこと」が、この空間では「構造」となり、「ひとつの全体」を獲得する。「ミーイッセイミヤケ」と「ウォッチショップ・エスパスタグホイヤー」は、ともに商品の展示と販売機能をカプセル化したデザインである。カプセルは透明素材でつくられ、やはり動くことがシステムを生き生きしたものにしている。「ホームネクサス」は多目的なギャラリーである。写真や作品の展示機能を独立した壁面システムに可変的に吸収する。展示することで生じるパターンが施設を包み込む。空間の仕組みの構造が発生する。
インテリアデザイン / 空間の関係・イメージ・要素 / 六耀社 / 2003.01