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ポップな態度と打って変って、二日目は「共同幻想論」1968年吉本隆明著
初版から2年で十五版なので、別格の思想書ベストセラーだろう。
中身は遠野物語と古事記から論を起こした難解なもので、おどろおどろしい造本と原理主義的で硬質な文章、国家の起源=共同幻想を宣託するような論旨から、体制に反旗を翻す全共闘学生のバイブルとなった本だ。
この本には個人的な思い出がある。
1970年11月25日、洗足湖畔図書館でこの書物(というくらい重苦しい内容)を読み終えようとする昼頃、ロビーのテレビ周辺がにわかに騒々しくなった。テレビには市ヶ谷の自衛隊官舎バルコニーで演説する三島由紀夫が映っていた。
全身が脱力する感覚になった。
高校卒業後、徹夜して読了した「金閣寺」の衝撃(この衝撃は横尾忠則も同じだったとのちに知る)以来、三島由紀夫に入れ込んでいたんですね。乃木会館の右翼学生主催の三島由紀夫講演会に恐る恐る押しかけるほどに、ミーハーだったのです。
でも心情は左翼。さらに美大にも押し寄せていた最新の思想、現象学や構造主義の波が三島由紀夫とせめぎ合う。ロックアウトに至る武蔵美の日々の中で。否が応でも吉本隆明が浮上してくる。「共同幻想論」はほとんど構造主義的!と感じたし。
なんていう人文系においてややこしい1970年11月25日だったわけで、三島の死に全身が脱力だったのです。それにしても、この書物、装丁が不気味。