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「高丘親王航海記」澁澤龍彦著
幻想や奇譚、黒魔術や錬金術が流行した時期があった。稲垣足穂のA感覚には相当に感化されたし、種村季弘の錬金術に幻惑したりするのもトレンドだったが、その種の人脈で大親分といえば澁澤龍彦であることに異論はないと思う。
黒眼鏡の貴公子。澁澤龍彦といえば、博物誌的な物質と空間幻想、幾何学へのエロスへと誘ってくれる「胡桃の中の世界」が嚆矢だろう。しかしブックカバーとしては小説「高丘親王航海記」を選びたい。
9世紀、平城帝の親王が天竺へ旅する怪奇幻想遍歴譚。泣けば真珠が目からこぼれ落ちるような美しい夢へと誘う。図像イメージが素晴らしく、この物語をアートディレクター榎本了壱」は絵巻物にした。これがすこぶるイイ。澁澤龍彦はこの小説を書き上げた直後、出版前に亡くなっている。
来年から一万円札の顔になる渋沢栄一は血縁者に当たる。榎本了壱さんの書画も紹介する。絵の裏には書写もあり幻惑この上ない。