- 東京糸井重里事務所 | Tokyo Itoi Shigesato Office <2005>
東京糸井重里事務所
2005
用途 /オフィス
所在地/東京都港区南青山
面積 /660㎡
- ベンチ
「ほぼ日刊イトイ新聞」は1日100万人がアクセスする奇妙で巨大なウェブサイトである。
糸井重里氏が主宰し、インターネットがつくり出すクリエイティビティの新しい可能性を
切り開いている。実に多くのアーティスト、作家、ジャーナリスト、学者、そして読者がイン
タラクティブに交流し、クリエイティブなコミュニケーションを産出する場となっている。
このプロジェクトはそんな糸井さんのオフィスのインテリアである。機能的にはオフィ
スだが、糸井さんはオフィスを欲しがらなかった。そしてクールなデザインも欲しがらな
かった。コミュニケーションを産出する場だけを望んでいた。だからどういうデザイン
にという要望は一切なく、その代わりひとつの言葉だけが「コンセプト」として私に投
げかけられた。
それは「ベンチ」というものだった。「ベンチでぜひお願いします」というのだ。
私は困った。横並びに座るベンチの、人と人とのつながり方、コミュニケーションを参
考にすればいいのかなと思ったが、どうもそんな単純ではなさそうだった。何かの概
念のようにも思えた。
私は形づくって、さらにデザインにしてしまうことをまず止めた。糸井さんの言葉は空
間デザインという領域に対する判断停止のように思えたからだ。
私が試みたのは、場と場のつながり方をほんの少しズラすことだった。
最小限の壁で部屋をつくり、部屋と通路、そしてまた部屋へというつながり方に、移動
する人が介在してはじめて出現する様相(ベンチのようなコミュニケーション)のようなも
のをつくり出すことだった。
人同士が動いてはじめて生まれるシークエンスのデザインの試みである。ちなみに赤い
大きなベンチは岡本太郎のもの。「おいしい生活」の書は、ウッディ・アレンのものである。