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- EX JUN New York <1985>

EX JUN New York
1985
用途 /ブティック
所在地/New York. SOHO
面積 /170㎡
プロデュース/岩立マーシャ
ディレクション/杉本貴志


- 振動
落下する水のような雨に遭遇したことがある。
1985年、マリファナの煙たなびく映画館で『蜘蛛女のキス』を見終え、
ニューヨークのウエストサイドあたりの路上に出たときのことだ。
空中に水が充満し、水滴の落下音が悲鳴をあげているようだったが、
どうやらそれは、落下する水が地面をたたきつける音だけではなかった。


分子生物学者福岡伸一氏は、ニューヨークを振動の都市だという。
マンハッタンのスカイクレーパーは、地表のみならず、地中を垂直に貫く。
ビルというビルは、強固な岩盤に倒達するための無数の杭の上に置かれているのだ。
無数の杭は振動の導管となり、地上の音を岩盤に伝える。
岩盤は振動を撥ね返し、共鳴しながら地表に噴出する。
ニューヨークの映画館の前で遭遇した雨の音は、
そのような共鳴であった。


無数の杭が垂直に屹立するニューヨーク。硬い石と鉄とが振動し、
地下の岩盤からの共鳴がそこかしこに噴出する街。
ニューヨークの、世界のどこにもない立ち騒ぐ様子は、
そのような物質の兆候なのだった。


そんなニューヨークに、日本から鉄を運んで鉄製の空間をつくったのがこのEx Jun。
日本の鉄は、ニューヨークの岩盤からの振動を、
その質量に浸透させたはずである。
物質は応答する、と思う。

有限会社 飯島直樹デザイン室
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